■ 有名な話：愛槍「蜻蛉切（とんぼきり）」と“無傷伝説”
本多忠勝の代名詞とも言えるのが、名槍「蜻蛉切（とんぼきり）」です。この槍は、穂先に飛んできたトンボが触れただけで真っ二つになったという逸話があるほど切れ味鋭いと伝えられています。この伝説から、「蜻蛉切」という名がついたとされます。
忠勝はこの槍を手に生涯57回の合戦に出陣し、一度も大きな傷を負わなかったといわれ、「家康に過ぎたるものが二つあり、唐の頭に本多平八（＝忠勝）」と称されたほど。つまり忠勝の存在そのものが、もったいないほど優秀すぎる家臣として戦国ファンの記憶に残っているのです。
「一度も傷を負わなかった」のではなく、“軽傷はあった”という記録も
戦国時代最強の武将のひとりとされる本多忠勝には、「生涯57度の合戦に出て一度も傷を負わなかった」という伝説が残っています。これは江戸時代の軍記物『名将言行録』などによって語られたもので、忠勝の超人的な強さを象徴する逸話として有名です。
しかし、実はこの“完全無傷伝説”には一部異論があり、実際には軽傷を負った可能性があるとする記録がいくつか存在します。
◉ 三方ヶ原の戦いでの“矢傷”の記録
1573年の「三方ヶ原の戦い」では、徳川軍が武田信玄軍に大敗を喫し、家康自身も命からがら脱出するという窮地に陥りました。この戦いに従軍していた忠勝も、奮戦の末に退却戦に参加しています。
このとき、ある古記録（※例えば『武徳編年集成』など）には、忠勝が馬上で敵の矢を受けたが命には別状なかったという内容が記されており、「完全な無傷」というのはやや誇張であることがわかります。
ただし、その傷は致命傷でも深手でもなく、軽傷で済んだとされており、彼の判断力や身のこなしの巧みさがうかがえる一面でもあります。
◉ “傷を負わなかった”は比喩的表現だった？
さらに研究者の中には、「無傷」という表現は、敵に背を向けず・恐れず・忠義を尽くしたという比喩的な意味合いで使われた可能性もあると指摘しています。つまり、「忠勝は決して臆せず、命がけで家康に仕えた」という精神性を象徴する言葉として「無傷」が語られたと見る説です。
実際、当時の武将で傷を一度も負わないというのは極めて稀で、数十戦に出ている忠勝が“かすり傷すらゼロ”であったとは考えにくいのが実情です。
■ まとめ：誇張はあれど「不死身級の戦巧者」であった事実は変わらない
本多忠勝の「無傷伝説」はやや誇張された部分もあるものの、それでも致命傷を負わず、命を落とすような窮地から常に生還していたという点で、類まれなる武将だったことに疑いはありません。彼の実力、判断力、そして統率力の高さが、「無傷の戦国武将」という称号にふさわしいものであったことは、今も多くの歴史ファンを魅了しています。
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徳川家の重臣の中でも「一番背が高かった」？
本多忠勝は戦国時代の中でも、非常に大柄だったとされる武将のひとりです。複数の史料や伝承から、彼の身長は六尺二寸（ろくしゃくにすん）＝約188cm前後あったと伝えられています。
◉ 江戸期の資料に見る「忠勝＝長身」の記録
江戸時代に書かれた『名将言行録』や『常山紀談』などの書物では、忠勝の体格についてしばしば記述があり、その中でも身の丈六尺を超える大男であったという描写が目立ちます。
また、彼が着用していたとされる甲冑や愛槍「蜻蛉切（とんぼきり）」も、通常の武具に比べて大ぶりで重く、これを軽々と扱っていたというエピソードが、彼の体格の良さを裏付ける要素とされています。
◉ 平均身長から見た“異常値”
戦国時代の日本人男性の平均身長は、当時の人骨調査などから約155〜160cm程度だったとされています。つまり、忠勝が約188cmあったとすれば、現代に置き換えると200cm級の巨漢に相当し、戦場ではまさに“目立ちまくる存在”だったといえます。
この体格に、鹿の角をあしらった脇立兜（わきだてかぶと）、巨大な槍、赤備えの甲冑といった圧倒的なビジュアルが加わり、忠勝は「鬼神のごとき猛将」として敵軍に強烈なインパクトを与えました。
◉ なぜ“身長”が語り継がれたのか？
戦国時代の武将は、武勇や戦績だけでなく「外見」も重要な戦略要素でした。特に本多忠勝のように戦わずして相手をひるませる”ような威圧感を持つ存在は、軍団の士気を高め、敵の心理にプレッシャーを与える効果もあったと考えられます。
徳川四天王のなかでも、榊原康政や井伊直政が「戦術や指揮」で知られるのに対し、忠勝は「身体そのものが武器」とも言える異質な存在でした。
◉ 結論：戦国の“見た目最強”は本多忠勝だった？
現存する遺品や伝承から判断する限り、本多忠勝は徳川家の中でも群を抜いた“体格派”であり、その存在感だけで戦場を支配していたと言っても過言ではありません。
彼の背丈と装備は、まさに「戦国フィジカルエリート」の象徴だったのです。
実は息子・本多忠朝は「失態」で改易されていた
徳川家康の重臣として名を馳せた本多忠勝には、嫡男・本多忠朝（ほんだ ただとも）という後継者がいました。忠朝は父の跡を継ぎ、戦国武将の家柄を引き継いで大名となりますが、実はその後の人生は父と対照的で、大きな失態を犯して改易（＝お家取り潰し）されるという波乱の運命をたどりました。
◉ 忠朝は父と同じく武勇に優れ、紀州で1万石を拝領
忠朝は若いころから武勇に優れ、関ヶ原の戦いや大坂冬の陣でも活躍。1615年の大坂夏の陣では、紀伊和歌山にて1万石を領していた紀州藩主として出陣します。
この時、忠朝は父譲りの槍働きを期待されていました。ところが、戦場でとんでもない行動をとってしまうのです。
◉ 【致命的な失態】酒に酔ったまま出陣し、戦線離脱
大坂夏の陣で忠朝が率いる軍は、重要なタイミングで前線から退却してしまいました。その理由は――
なんと、忠朝自身が酒に酔って軍を動かせない状態だったとされているのです。
これは『徳川実紀』や『寛政重修諸家譜』などにも記述があり、「忠朝、酩酊して指揮とれず」と伝えられています。武将としては致命的な行為であり、徳川方としても許容できるレベルを超えていました。
◉ 改易の処分とその後
この失態により、忠朝は戦後ただちに改易処分となり、1万石の所領を没収されてしまいます。父・本多忠勝が“無傷の猛将”として称えられたのとは対照的に、忠朝は“酒の失敗で家を失った武将”という残念な評価が残ってしまったのです。
その後、忠朝は家臣の取り成しや過去の功績により小藩での復帰を許されますが、父のような名声を得ることはありませんでした。
■ まとめ：父・忠勝とは正反対の“悲劇の後継者”
本多忠勝の息子・忠朝の人生は、父の偉大さに比してあまりにも対照的でした。
「忠義・武勇・無傷」の象徴であった忠勝に対し、「酒・失態・改易」という言葉が忠朝の名に並ぶのは、まさに戦国から泰平へと移る時代の厳しさを象徴する出来事ともいえます。
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“槍”のイメージが強いが、晩年は「合戦から距離を置いた生き方」をしていた
「生涯無傷」「蜻蛉切の使い手」など、戦国最強の槍武将として知られる本多忠勝ですが、彼の晩年は意外にも合戦から距離を置いた穏やかな日々でした。
戦の荒波を生き抜いた後、彼は「統治者」「教養人」としての顔を見せていくのです。
◉ 関ヶ原の戦いを最後に、事実上“前線から退いた”
1600年の関ヶ原の戦いでは、徳川軍の重臣として西軍と対峙し、最前線で武功を挙げた忠勝ですが、この戦を境に実戦から離れます。
戦後、家康から感謝され、伊勢国桑名藩10万石の大名として取り立てられました。ここから忠勝の人生は「槍の達人」から「民政の指導者」へとシフトしていきます。
◉ 桑名城の整備と城下町の建設に尽力
忠勝は、拠点となる桑名城の修築と拡張を行い、それにあわせて城下町の整備にも力を注ぎました。
宿場町としての桑名は、東海道の要衝であり、経済と交通の要となるべく整備が進められます。城だけでなく、橋や堀、寺社の誘致や町人の保護策まで講じていたことが記録されています。
また、忠勝は新田開発や治水事業にも取り組み、内政に優れた戦国武将という新たな評価を受けるようになります。
◉ 儒学や礼節を重視し、教養を広めた文化人の顔
本多忠勝はただの戦上手な武人ではなく、儒学や礼節を重んじた人物でもありました。
家臣に対しては「忠義・礼節・文武両道」を説き、自らも書物や教養を大切にする姿勢を示しました。
こうした姿勢は、忠勝がただの“武力偏重の将”ではなく、文化と統治を重んじる理想的な大名像を目指していたことを物語っています。
◉ 晩年は静かに、家康に忠誠を誓い続けた“忠義の人”
忠勝は晩年まで徳川家康への忠義を貫き、家康が将軍となって以降も、決して幕府の政治の表舞台には立たず、陰から支える立場を貫きます。
その姿勢は、戦国の武人から江戸初期の支配者へと時代が移り変わる中で、彼が自らの役割を正しく見極めていたことの表れでもあります。
1609年、63歳で死去。享年としては当時としては長寿であり、その人生はまさに「戦いに生き、平和に終わった」戦国武将の理想像とも言えるでしょう。
■ まとめ：本多忠勝は“戦”だけでなく“治”にも優れた名将だった
「無傷の猛将」というイメージが強い本多忠勝ですが、晩年の彼は、民政・文化・統治を重んじる冷静な知将・賢人としての側面を見せていました。
戦国乱世を槍で生き抜いた後は、平和の時代にふさわしい指導者として、地域社会と家中を支え続けた本多忠勝の人生は、決して“槍一本”にとどまらない深い魅力に満ちているのです。
まとめ
本多忠勝といえば「生涯無傷」「蜻蛉切の名槍」「徳川最強の忠臣」として知られていますが、今回紹介した逸話からは、それだけではない人間味や時代の変化への対応力が見えてきます。
実は軽傷を負っていた記録や、異常なまでに高かった身長、息子・忠朝の失敗による改易、そして晩年の穏やかな内政者としての顔。
これらはすべて、忠勝という人物が単なる“戦う武将”ではなく、時代に応じて自らを変化させながら忠義を貫いた人物であることを物語っています。
戦場の鬼神として名を馳せた彼の本当の魅力は、戦いの中で見せた冷静さ、統率力、そして時には退く勇気と文化的教養にあったのかもしれません。
戦国乱世の生き証人ともいえる本多忠勝の人生は、まさに「武と智の融合」そのものでした。
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