桶狭間の戦いで無断出陣、首を泥に投げ捨てた豪胆エピソード
永禄３年（1560年）、織田信長のお気に入りの茶坊主を斬った「笄（こうがい）斬り」の咎で出仕停止中だった前田利家は、信長への許しを乞うため無断で桶狭間の戦いに参陣。朝の合戦で首級を１つ、本戦でさらに２つの首級を挙げる功績を立てたものの帰参は許されず、信長に叱責された利家は持参した首級をひとつずつ泥沼へ投げ捨てた──という豪胆な振る舞いが後世まで語り継がれています。
家臣にお年玉をねだるほどの超ドケチ
背景
文禄元年（1592年）、豊臣秀吉は朝鮮出兵（文禄の役）を決定し、諸大名に対して献金の協力を要請しました。前田利家は嫡男・利長、次男・利政へ領地を分与した後で、自身は約20万石の家中を運営しており、財政的に逼迫していました。
目的
秀吉への忠義を示すため、利家自身も献金に応じる必要がありました。しかし、家臣への俸禄支給や新規人員雇用を縮小しつつ、どうしても資金を捻出したいという事情がありました 。
具体的手法
利家は当時日本に伝来したばかりのそろばんをいち早く取り入れ、自ら月次で家計簿を付けて支出を厳格に管理。通常、主君が家臣に渡す「お年玉（お年始金）」を逆手に取り、慣例を打ち破って家臣からお年玉を“徴収”するという前代未聞の策を講じました。これにより、家臣一人あたり数十貫文単位の小口資金を確実に集めたと伝わります 。
家臣の反応とその後
家臣たちは「主君にお年玉を渡す」という慣習の逆転に強い屈辱感を覚えつつも、利家の厳格な統治と“大義”の前に異を唱えにくく、しぶしぶ応じたと言われます。この倹約策で調達した資金は、実際に秀吉の朝鮮出兵向け献金に充てられました。
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死に装束を着るのを頑なに拒否
1. 死の床に伏した背景
慶長４年閏３月３日（1599年４月27日）、豊臣政権の五大老として重責を担ってきた前田利家は、大坂の自邸にて重い病に臥していました。このころ、豊臣秀頼を巡る徳川家康との政争が激化し、利家自身も家康と最後の対決を控えている状況でした。そんな中、正室・まつは夫の死後の冥福を案じて、ある準備に取りかかります 。
2. 正室・まつによる経帷子の差し出し
まつは手縫いで仕立てた「経帷子」（死に装束）を携え、利家の枕元に立ちます。彼女は静かにこう告げました。
「あなたは戦場で多くの命を奪われました。その報いが恐ろしいゆえ、どうかこの経帷子をお召しください」 。
3. 利家の理性と断固たる拒否
これに対し利家は、咳き込みながらも力強く答えます。
「確かに幾多の合戦で多くの者を討った。しかし、理もなく人を殺めたり、苦しめたことは一度もない。われに後悔の念はない」。
自身の行動を正当化しつつ、死装束の必要性を完全に否定しました。
4. “地獄で閻魔とひと戦さ”の豪胆な申し出
さらに利家は続けてこう宣言します。
「それでも地獄へ堕ちるというのなら、わしより先に逝った者たちを集め、閻魔や鬼どもを相手にもう一度合戦をしてくれるわ。その経帷子は後からお前が纏って参れ」。
死後の来世にまで戦国武将としての矜持を示し、哀悼ではなく闘志を貫いた逸話です。
5. 背後にある「律義者」の信念
このやりとりは、利家が生前から「律義者」と評され、多くの武将や家臣に慕われていた人柄を象徴しています。戦場での冷徹な判断力と、一方で自己の行動に対する揺るぎない正義感──これらが最後まで真実の彼を貫き、妻のまつでさえも服従を強いられたというエピソードとして後世に語り継がれました 。
隠れキリシタン大名の疑い
「洗礼名オーギュスチン」を名乗ったとの言い伝え
一部の史料では、利家自身が秘密裏に洗礼を受け、「オーギュスチン（Augustin）」のクリスチャンネームを持っていたとも伝わります。正式には確認できないものの、利家の教養趣味やキリシタン大名との親交ぶりから生まれた後世の逸話と考えられています 。
改易されたキリシタン大名・高山右近を厚遇
豊臣秀吉の禁教令で領国を追われた高山右近を、利家は1588年に加賀へ招き、金沢城近くに屋敷を与えるとともに、3万石の禄を支給しました。公式の場では仏教儀礼を逸脱しない範囲での措置でしたが、右近にとってはキリシタン信仰を守る“逃れ場”となりました 。
遺言状に「右近を大切に遇せよ」と明記
利家の遺言書には、嫡男・利長に対し「高山右近をこれまで以上に大切に遇せよ」という一文が残されています。改易されたキリシタン大名への配慮を遺言にまで記す例は稀で、利家の信仰への寛容姿勢を示す根拠の一つとされています 。
密かに製作されたキリシタンシンボル入りの古九谷大皿
加賀藩主・利家の庇護下で茶の湯や文化振興を奨励した背景には、隠れキリシタン的モチーフを取り込んだ器物が含まれていました。蓮代寺の飛地では、洗礼盤（聖餐用器）を彷彿とさせる「水の意匠」と十字架型のシンボルをあしらった色絵大皿を、藩士への褒賞品としてひそかに製作させていた痕跡が発掘されています 。
旧前田邸跡・資料館に残るキリシタン関連遺物
近年オープンした「高山右近記念資料館」や、旧前田邸跡の発掘調査では、仏像や石仏の台座にラテン語の“V字”刻印、菅原道真像の烏帽子に刻まれた十字架、さらには「妙見菩薩像」にキリスト教的光背を付したものなど、禁教下でも信仰を捨てきれなかった信徒たちが密かに遺した遺物が展示・報告されています 。
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「加賀百万石」は利家の生前の実績ではなかった
利家の領地は最大でも約80万石にとどまっていた
豊臣秀吉から与えられた利家の直轄領は最大で約80万石でしたが、うち越中40万石は嫡男・利長、能登20万石は次男・利政に分与され、利家自身の手元にはわずか20万石余りしか残りませんでした。
利家は慶長４年（1599年）に死没し、関ヶ原合戦を見ずに世を去った
前田利家は1599年４月27日に没しており、翌年の関ヶ原合戦（1600年）を経験することなく逝去。そのため、東軍への加増によって石高が激増する機会を享受できませんでした。
「百万石超え」は関ヶ原後、嫡男・利長の時代の成果
関ヶ原合戦で徳川方についた利長は、改易された弟・利政の旧領40万石を加増されるとともに、検地による石高改定で合計約119万2,700石を領有。ここに至って初めて「加賀百万石」の名実が伴いました。
江戸幕府下の検地制度が石高を正式に確定させた
石高は「検地」による生産力評価で定められるため、豊臣期とは別の基準で測られたことも大きい。関ヶ原後の新検地（1601年頃）では、利長期の加賀藩が公式に100万石超と認定されました。
「加賀百万石」は利家の治績ではなく、後継者の時代に築かれた誇り
前田利家は加賀藩礎の確立者として高く評価されますが、歴史的に「百万石大名」と称されるのは、あくまで利長以降の石高拡大があってこそ。利家自身の生前実績では実現していない点に留意が必要です。
まとめ
前田利家は、加賀藩の礎を築いた大名であると同時に、戦国武将としての豪胆さと倹約精神、さらには信仰の寛容さが同居した稀有な人物でした。まず、朝鮮出兵向けの献金を捻出するため、主君らしからぬ「お年玉徴収」で家臣から資金を集めるほどの徹底した倹約家であったこと。次に、死を目前にしても「後悔はない」と語り、妻・まつの手縫いの経帷子を断固拒否し、あくまで武将としての矜持を貫いたこと。また、一部史料に伝わる「洗礼名オーギュスチン」をはじめ、キリシタン大名・高山右近を庇護したエピソードからは、信仰に対する寛容な姿勢が浮かび上がります。さらに、生前は決して達成していなかった「加賀百万石」の称号も、関ヶ原後に嫡男・利長の手で完成されたものであり、利家自身の実績ではなかったこと。これらの逸話は、戦国大名・前田利家の多面性を際立たせ、後世に語り継がれる所以となっています。
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