■「大政奉還」を自ら決断し、政権を朝廷に返上した
慶喜が語られる際、最も有名なのが「大政奉還」の決断です。
1867年（慶応3年）、彼は自ら朝廷に政権を返すことを決断し、約260年続いた徳川幕府に終止符を打ちました。
この行動は、武力衝突を避けるための政治的な決断であり、一部では「明治維新をスムーズに導いた賢明な選択」とも評価されています。一方で、政権を返した後も影響力を残そうとしたという見方もあり、歴史家の間でも評価が分かれます。
いずれにせよ、日本の近代化の幕開けとなる「明治維新」の重要な転換点となったのが、この徳川慶喜による大政奉還です。
幕府崩壊後は「静岡でカメラ小僧」になっていた？
― 最後の将軍、趣味人としての第二の人生 ―
徳川慶喜（とくがわ よしのぶ）は、1867年に大政奉還を行って政権を朝廷に返上し、徳川幕府の終焉を迎えた歴史的な人物です。日本史の大転換点を担った“最後の将軍”という重い役割を果たした後、慶喜は政治の世界から完全に身を引き、驚くべき趣味の世界に没頭していきます。
その趣味とは――「写真撮影」。
つまり、カメラです。
カメラとの出会いと本格的な趣味化
明治維新以後、慶喜は「駿府」（現在の静岡市）に移り住み、静かな隠居生活を送り始めました。ちょうどその頃、西洋から最新技術として日本に入ってきたのが「カメラ（写真術）」でした。
慶喜はその先進的な機械に強い興味を持ち、すぐに自ら機材を入手。しかも、ただの興味本位ではなく、撮影から現像までを一人でこなすという本格的な写真家活動を始めたのです。
被写体は風景・人物・そして自分自身！
慶喜が好んで撮ったのは、静岡の自然風景や町の様子、そして身近な人々――さらには自画像（セルフポートレート）まで。鏡を使った構図を工夫したり、明暗の調整を独自に研究したりと、撮影の技術にも相当こだわっていたようです。
現代の視点で見ると、まさに“カメラ小僧”や“写真オタク”のような存在だったと言えるでしょう。
写真に込めた意図と記録的価値
この慶喜が撮影した写真の一部は、現在も静岡県や徳川記念財団などで保管・公開されています。明治初期の生活や風景を記録した貴重な資料であると同時に、歴史の表舞台を去った元将軍の、もうひとつの人生の証でもあります。
また、慶喜の写真には、政治家としての緊張感から解放された素朴で優しい眼差しが感じられ、見る人の心を打つと言われています。
「武士」から「趣味人」へ――静かなる余生の象徴
激動の幕末を生き抜いた慶喜は、最終的には趣味と家族を大切にする「一市民」としての人生を選びました。それは、武力による時代の終わりを迎えたあと、彼なりの“平和の形”だったのかもしれません。
カメラという西洋文化を通して、明治という新時代を静かに、しかし確かに見つめていた――
この姿こそ、私たちがあまり知らない徳川慶喜の“もう一つの顔”なのです。
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将軍職に就く前に「謹慎処分」を受けたことがある
― 英明と称された慶喜にもあった“冷や飯時代” ―
徳川慶喜（とくがわ よしのぶ）は、15代将軍として幕末の難局に立ち向かった人物ですが、実はその就任以前に幕府から「謹慎処分」を受けていたという過去があります。これはあまり知られていない彼の“挫折”の一面であり、将軍になるまでの道のりがいかに波乱に満ちていたかを物語っています。
尊王攘夷に近い思想を警戒されていた
慶喜は水戸藩出身であり、もともと将軍家に連なる血筋でありながら、血統や政治能力の高さから将軍候補として早くから注目されていました。しかし、彼が育った水戸藩は、尊王攘夷思想が非常に強く、幕府中枢からは過激思想の温床と見られていました。
特に1858年〜1859年の「安政の大獄」において、尊皇攘夷派の志士たちが多数弾圧された際、慶喜自身も思想的に“危険視”され、幕府から謹慎処分を受けたとされています。
一時は将軍候補から“除外”されたことも
この謹慎によって、慶喜はしばらくの間、公の政治活動から排除されることになりました。そのため、本来であれば有力候補であったにもかかわらず、14代将軍には徳川家茂（いえもち）が選ばれることとなります。
幕府としては、当時の動乱を抑えるには「水戸派＝攘夷派」と距離を置いた人物を選ぶ必要があったのです。つまり、慶喜は一時的に「将軍不適格」とされた状態だったのです。
評判の高さゆえの“警戒”でもあった
皮肉にも、慶喜は非常に聡明で人格的にも優れていたため、「将軍になれば独自路線を貫くのでは」という懸念を幕府中枢に抱かれていたという説もあります。特に井伊直弼など一部の幕閣には、彼の柔軟な思想や行動力が逆に不安材料と見られていたのです。
結果的に、若くして“干される”ような形で表舞台から遠ざかり、「謹慎」という屈辱を経験することになります。
謹慎からの“復活劇”が将軍就任につながる
しかしその後、幕府内の政治構造が変わるにつれ、再び慶喜は将軍候補として返り咲きます。特に長州征伐の混乱や幕政改革の必要性が高まる中で、「英明な人物」として再評価され、ついに1866年、第15代将軍に就任するに至ります。
つまり、謹慎という挫折を乗り越えたからこそ、慶喜の将軍就任は一層ドラマチックなものとなったのです。
京都での政務は「夜ふかしスタイル」だった
― 将軍なのに昼は寝てる!? 慶喜の異例な執務体制とは ―
徳川慶喜（とくがわ よしのぶ）は、江戸幕府最後の将軍として1866年に将軍職に就任しました。その活動拠点は当時の政治の中心であった京都・二条城。しかし、彼の政務スタイルは常識を覆すものでした――なんと、昼間は姿を見せず、深夜に執務を行っていたのです。
この“夜型将軍”とも言えるスタイルは、単なる体質の問題ではなく、いくつもの政治的・戦略的な意味を持っていました。
昼間は“人前に出ない”、政務は深夜から明け方に集中
記録によると、慶喜は二条城や京都御所で政務を行う際、夜9時〜明け方3時頃に執務に取り組むことが多かったとされます。しかも、昼間の時間帯は寝ていたという説もあるほど。
幕臣や公家たちの間でも、「将軍様はいつ活動しているのか分からない」と不思議がられていたようです。しかしこれは単なる変人行動ではありません。むしろ、当時の京都の極度の緊張状態と、慶喜の用心深さによる危機管理行動でした。
なぜ夜にしか動かなかったのか？― 3つの理由
① 暗殺の危険があった
当時の京都は、尊王攘夷派と佐幕派が激しく対立していた危険地帯。倒幕を目論む勢力から、慶喜自身の暗殺計画が複数存在していたとされています。
そのため、あえて行動時間をずらし、スケジュールを読ませないようにしていたのです。
② スパイや密偵が横行していた
新撰組ですら全員の信用が置けないほど、幕末の京都には情報戦が張り巡らされていました。昼間の行動は目撃者が多く、情報漏洩のリスクが高まることから、夜間に密かに意思決定を下すという形式が好まれました。
③ 自身の健康・性格にも理由が？
慶喜はもともと無口で慎重な性格であり、人前で表情を崩さず、対面の交渉や接見を好まなかったとされます。
また、神経質で不眠気味だったという記録もあり、夜の静寂の中で物事を考える方が集中できた可能性もあります。
“夜の将軍”が導いた政治決断とは？
このような独特のスタイルをとる中で、慶喜は徳川家の命運を握る重大な決断を次々と下していきます。特に有名なのが、1867年の「大政奉還」です。
政権を朝廷に返すという大胆な判断も、密かに夜中に側近と協議を重ねながら練られていたと言われています。
まとめ：夜の静寂の中に、将軍の苦悩と覚悟があった
「将軍が夜にしか動かない」というだけで奇異に見られがちですが、その背景には、危機を察知する能力と非凡な自己防衛感覚、そして幕府を率いる者としての責任感がありました。
夜の京都で静かに政務に向かう慶喜の姿は、まさに孤高の将軍という言葉が似合う存在だったのです。
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晩年には「徳川一族の家系図編纂」に情熱を注いだ
― 将軍の“その後”は、記録と向き合う静かな日々 ―
徳川慶喜（とくがわ よしのぶ）は、大政奉還をもって幕府を終焉させた“最後の将軍”として歴史に名を残しました。
しかし、将軍職を退いたその後の人生は、戦や政治とはまったく異なる方向へ――それは、「徳川一族の家系図」をまとめるという地道で緻密な作業に身を投じた日々でした。
家系図編纂に向かった理由とは？
明治維新後、慶喜は静岡に移り住み、東京への再移住を経て、政界には一切関与しない静かな余生を送ります。表舞台から身を引いた彼が強く意識したのが、「徳川の名をどう後世に伝えるか」というテーマでした。
自身の代で幕府が終わったという事実を背負う彼にとって、徳川家の存在価値や尊厳を歴史の中で埋もれさせないために、正確な系譜を記すことは極めて重要な使命だったのです。
家系図の収集と編纂作業
慶喜は、自身の系統（御三卿の一つである一橋家）だけでなく、本家・御三家・支藩・分家など全国に散らばる徳川一族の血筋や結婚関係、臣籍降下した人物、明治以降に新たに派生した家系までを丁寧に調査・整理しました。
・古文書や過去の記録を丹念に読み解き
・口伝や地方の家伝資料まで調査し
・図式や年表の形式で正確に構築していった
特に明治以降は士族・華族制度の再編が進む中で、家格や出自の明示が重要視されていたため、この作業は単なる趣味や記録ではなく、実務的な意味も持っていたのです。
慶喜自身の几帳面さと史料重視の姿勢
歴史に残された慶喜の人柄からも、非常に几帳面で記録好きな性格だったことがうかがえます。
たとえば写真を趣味にした際も、レンズや現像方法を詳細に記録したり、日常の出来事を日記に細かく残していたことが知られています。
家系図編纂においても、単なる略図ではなく、世代ごとの人物像や特徴まで書き添えるなど、極めて丁寧な仕事ぶりだったようです。
その意義と、後世への貢献
慶喜が晩年に情熱を注いでまとめた家系図資料は、現在も徳川記念財団などに引き継がれ、歴史研究や家系確認の貴重な一次史料として役立っています。
また、徳川一族の末裔が現在も系譜を維持しながら活動している背景には、このときの慶喜の努力が土台となっていることは間違いありません。
「歴史を終えた男」が選んだ、もう一つの仕事
幕末の激動を生き、国の仕組みを自ら手放した徳川慶喜。彼がその後の人生で選んだのは、「記録すること」「正しく伝えること」でした。
戦ではなく、血脈の系譜に向き合い、歴史を次世代に橋渡しする――それはまさに、将軍の矜持を静かに継承する“記録者としての生き方”だったのです。
まとめ
徳川幕府を終焉させた最後の将軍・徳川慶喜。
彼の名は「大政奉還」によって歴史の転換点を刻んだ人物として知られていますが、その実像には、あまり語られることのない多面的な人間性と深い内面が存在します。
政権を担う前には尊王攘夷に近い思想を警戒され謹慎処分を受けるという波乱を経験し、将軍就任後も深夜に政務を行う夜型スタイルという異例の姿勢で動乱の京都を乗り切ろうとしました。
さらに、表舞台から退いた後は静岡でカメラに没頭する趣味人となり、晩年には一族の記録を残すべく、地道な家系図の編纂作業に心血を注いだのです。
政治的リーダーとしての顔の裏にあった、慎重で観察眼に富み、記録と静けさを愛した人物像――
徳川慶喜という人物は、まさに「歴史の終わりを自ら引き受けた将軍」であると同時に、「その先を記録し、未来に橋渡しする静かな賢者」でもありました。
彼の人生を通して見えるのは、“退くこと”の重みと美しさ。
表舞台だけでは見えない、深みあるリーダー像に、今こそもう一度目を向けてみる価値があるのではないでしょうか。
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